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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)2974号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕一(事故の発生)

請求原因第一項(一)ないし(五)の事実、本件事故により訴外亡小湊三吉が負傷を受けたことおよび同人が昭和四三年六月二一日死亡したことは当事者間に争いがない。

(一) ところで、<証拠>によれば訴外亡小湊三吉は、昭和四三年六月二一日、起床三〇分後の午前八時頃、突然意識不明となり、けいれん状態のまま、午前九時五〇分頃死亡したこと、死亡直前の同人の血圧は、最高が三〇〇を超え、最低も一八〇を超えていたこと、同人には死因となるような外傷なく、後頭下穴針による背髄液検査の結果では、血液混入が認められ、脳出血により死亡したものと診断されたこと、一般に脳出血があり、そのため本件のように短時間で死亡した場合には脳幹部の出血であることが多いことが認められ、右認定に反する証拠はないところ、右事実によると、亡三吉は、脳出血により死亡し、しかもその出血部は脳幹部であつたと推認される。

(二) 右亡三吉の脳出血による死亡は本件事故の受傷と因果関係があるかどうかについて以下判断する。

<証拠>を綜合すれば次の事実が認められる。

1 亡三吉は、本件事故により、全身打撲、脳挫創、脳震盪、頭部割創、頭蓋骨折、脳内血腫、右腓骨骨折、右足関節脱臼の傷害を受け、事故日である昭和四一年七月六日、葛飾区東金町四丁目所在の第一病院に入院したが、重篤症状にあり、二日間は昏酔状態にあつたこと。しかも、血腫も増大の傾向にあつたため、同月一六日には開頭手術も行なわれたこと、その後経過良好となり、付添い補助があれば歩行可能となつたので、同年一二月三〇日一旦退院したこと、同人の退院時の疾状は、半身不随、歩行困難、完全なる起床不能、失禁症状が残り、脳萎縮が推察されたこと。

2 亡三吉は、昭和四二年一月三〇日まで通院してマッサージ治療等機能回復訓練を受けたが、さらに高度の訓練を受けるため、同月三〇日から同年二月一〇日まで再入院し、また同年三月一三日から同月二八日までまた入院したこと。その後も、同人は、昭和四三年三月二日まで同病院に通院して治療を受けていたが、そのかたわら、足立区千住五丁目所在の名倉医院に昭和四二年七月一七日通院して治療を受けたほか、同年四月八日から同年八月二三日まで一〇回に亘り台東区茅町二丁目所在の金井整形外科に通つて治療を受け、さらに同年九月五日から同年一〇月一八日までは、湯河原温泉所在の厚生年金湯河原整形外科病院に入院して機能訓練を受けたほか、昭和四二年一月三日から昭和四三年六月一九日までの間に二三二回マッサージを受けていたこと。

3 右のような訓練、治療によるも同人の症状は余り改善されず、起居動作は不自由であり、食事も他人の手を借りなければならず、寝る時も畳の上に横になることができず、便所にも特製の台を作つて使用しなければならないような状況にあり、歩行も他人の介添か杖なしでは不可能であつたこと。

4 老令者の脳萎縮症状は、一般に回復が困難であり、また脳萎縮は脳動脈硬化をもたらすことが多いこと。

5 亡三吉は、本件事故以前には高血圧であるとの診断を受けたことがなかつたところ、昭和四三年一月八日以降脳動脈硬化症との診断の下に、葛飾区金町三丁目所在の仲本医院において同月三月二九日まで投薬治療等を受けていたこと。

以上の事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

これによると、亡三吉は、本件事故による受傷で、脳の萎縮を生じ、それが原因となつて脳動脈硬化症に罹り、脳動脈のうち脳幹部の部分から、出血を起し、死亡したものと推認される。したがつて、右認定のような事情の下では、亡三吉の死亡は、本件事故と相当因果関係にあるものと認められる。ところで、被告らは因果関係を認めるとしても五〇%に限つて認めるのが相当であると主張している。たしかに、亡三吉の脳動脈硬化症罹患の原因としては、同人の年令(後記認定のとおり、死亡時六七才)の影響も考えられないではない。しかし、一般に老令者はすべて動脈硬化症になるものでもないし、また亡三吉が本件事故前に高血圧症なり、動脈硬化症であつたことを認めることできない本件にあつては、右因果関係を限定しなければならない根拠を見出し難い。

二 (責任原因)<略>

三 (損害)

(一) (亡三吉に生じた損害)

1 治療関係費用  金三二万二九八四円

<証拠>によれば、亡三吉は、前記のような治療に伴い、被告ら既払のほか、次のような出捐を余儀なくされたことが認められ、右認定に反する証拠はないところ、前記認定の亡三吉の治療経過、病状に鑑みると、右損害は本件事故と相当因果関係にあるものと認めるのが相当である。

(1) 第一病院治療費 金六万七五四〇円

(2) 名倉医院治療費 金 三〇〇円

(3) 金井整形外科治療費

金三万五三〇〇円

(4) 第一病院付添看護費

金三万八五四〇円

(5) 厚生年金病院入院室料差額

金二万五五二〇円

(6) 同病院付添看護人食事料

金八六七〇円

(7) 同病院布団、敷布使用料

金二三四二円

(8) 薬品、栄養補給、日用品購入費

金三万〇五七二円

(9) マッサージ費用 金九万三六〇〇円

(10) 亡三吉のための自宅への改造費

金二万〇六〇〇円

2 訴外礎野キクへのお礼金

認められない。

<中略>

3 眼鏡代 金二万五〇〇〇円

<証拠>によれば、亡三吉は事故時、眼鏡を使用したが、それが事故時に紛失したこと、同眼鏡は二万五〇〇〇円の価格であることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

4 休業損害

金一八六万八八九一円

<証拠>によれば、亡三吉は、本件事故当時六五才で、自転車部品を仕入れて、組立て地方の業者に卸すことを業としていた原告会社の代表取締役社長として、原告会社の業務執行に従事し、同社から月額金八万二三三〇円(税引)の収入を得ていたこと、同人は健康に優れ、まだまだ稼働を続けるつもりであつたこと、原告会社は亡三吉が創立したもので、同人のなじみ客による取引が多かつたこと、亡三吉は、本件受傷後死亡時まで稼働せず、したがつて原告会社から何らの賃金の支払いも受けなかつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

そして、亡三吉の右のような休業は、前記認定の同人の治療経過、症状に鑑みると、本件事故と相当因果関係にあると認めるのが相当である。ところで、同人の休業損害算出にあたつては、同人の労働能力、手腕等の対価でないところのものがあれば、これを控除して計算しなければならないが、前認定のような同人の稼働状況、その給与額に照らすと、その給与額を減額しなけばならない要素を見い出すことができない。してみると、同人の休業損害は、次のとおり、金一八六万八八九一円と算定される。

5 逸失利益

金一三四万五二〇六円

前記認定の諸事情によれば、亡三吉は本件事故に因り死亡していなければ、少なくとも、あと三年間は前記収入を得られたであろうこと、そして同人は右収入のうち五〇%を自己の生活費等に費消したであろうことが推認されるから、同人の逸失利益の死亡時の現価は、次のとおり、金一三四万五二〇六円と算定される。

82,330×12×0.5×2.7232=1,345,206

(円以下切り捨て)

(なお、2.7232は法定利率による。

6 慰藉料 金一〇〇万円

前記認定のような、亡三吉の傷害の部位、程度、同人の治療経過、同人の症状等諸般の事情に鑑みると、亡三吉は本件受傷により甚大な精神的苦痛を受けたことが認められ、そのような同人の苦痛を慰藉するには、少なくとも金一〇〇万円が相当である。

なお、本件記録によると、本件訴は昭和四三年三月二二日に提起され、本件訴訟進行中に亡三吉が死亡したことが明らかであるから、同人の慰藉料請求権は相続の対象となると解するのが相当である。<中略>

7 損害填補および過失相殺<中略>

8 弁護士費用<中略>

9 相続

前記のとおり、亡三吉は本訴提起後の昭和四三年六月二一日死亡したところ、前掲甲第五号証および原告吉蔵本人尋問の結果によれば、原告多賀は亡三吉の配偶者であり、原告吉蔵は同人の実子であり、両名が亡三吉の相続人の全部であることが認められるから、原告らは、それぞれ相続分に応じ、亡三吉の損害賠償請求権を相続した。その額は、原告多賀が金三八万二四三二円(うち、弁護士費用分金三万六六六六円)、である。

(二) (原告多賀に生じた損害)

1 付添日当<略>

2 慰藉料 金五〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告多賀と亡三吉は大正八年頃結婚し、以後夫婦として生活を共にしていたことが認められ、この事情のほか、前認定のとおりの、本件事故の態様、特に亡三吉および被告永江の過失内容、本件事故による亡三吉の受傷の部位・程度、その後の症状、そして亡三吉は原告らの看護の甲斐なく死亡するに至つた等諸般の事情に鑑みれば、原告多賀が、亡三吉の受傷およびそれを原因とする死亡により蒙つた精神的損害を慰藉するには、金五〇万円をもつてあてるのが相当である。<略>

3 弁護士費用<中略>

(三)(原告吉蔵に生じた損害)<略>

1 死亡診断料<略>

2 葬儀関係費用<略>

3 慰藉料 金五〇万円

前認定とおりの本件事故の態様、特に亡三吉および被告永江の過失内容、本件事故による亡三吉の受傷の部位・程度、その後の症状、そして亡三吉は原告らの看護の甲斐なく死亡するに至つた等諸般の事情に鑑みれば、原告吉蔵が、亡三吉の受傷およびそれを原因とする死亡により蒙つた精神的損害を慰藉するには、金五〇万円をもつてあてるのが相当である。<後略> (田中康久)

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